主に事業が排出する廃棄物のなかで、人体や環境に大きな影響を及ぼす廃棄物を「特別管理産業廃棄物」といいます。特管物とも呼ばれており、特別な許可を取得したりほかの廃棄物よりも厳格に管理したりしなければなりません。今回は、取り扱う際に必要となる許可を中心に、特別管理産業廃棄物の基礎知識や注意点も解説します。許可取得を検討している人だけでなく、特別管理産業廃棄物の種類や具体例を知りたい人も参考にしてください。
特別管理産業廃棄物とは
特別管理産業廃棄物とは、「爆発性・毒性・感染症、その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物」のなかでも、主に事業から排出される廃棄物を指します。(廃棄物処理法第2条第5項)ほかの廃棄物よりも厳しい基準で取り扱う必要があり、排出事業者は事業所ごとに「特別管理産業廃棄物管理責任者」を任命しなければなりません。
特別管理産業廃棄物の種類
特別管理産業廃棄物は、排出事業の業種や特定物質の含有量などに応じて細かく分類されています。以下は特別管理産業廃棄物をまとめた表です。
区分 | 分類 | 概要 | 具体例 | |
特別管理産業廃棄物 | 廃油(燃焼性) | 引火点70度未満の燃焼しやすいもの | ・揮発油類 ・灯油類 ・軽油類(難燃性のタールピッチ類等を除く) | |
廃酸 | pH値2.0以下の酸性廃液 (著しい腐食性を有する) | ・廃濃硫酸 ・廃濃硝酸 等 | ||
廃アルカリ | pH値12.5以上のアルカリ性廃液 (著しい腐食性を有する) | ・強アルカリ廃液 等 | ||
感染性産業廃棄物 | 医療機関等から排出される以下の産業廃棄物 ・感染性病原体が含まれている可能性のあるもの ・感染性病原体が付着している可能性のあるもの | ・廃血液等の病理廃棄物 ・使用済み医療機材 ・使用済み衛生材料 等 | ||
特定有害産業廃棄物 | 廃PCB等 | 廃PCB原液もしくは、PCBを含む廃油 | ・熱媒体 ・電気絶縁油 等 | |
PCB汚染物 | PCBが染み込んだり付着したりしているもの | ・PCBが染み込んだ汚泥 ・PCBが付着、又は封入された廃プラスチック類 ・PCBが塗布、又は染み込んだ紙くず ・PCBが染み込んだ木くず ・PCBが染み込んだ繊維くず ・PCBが付着、又は封入された金属くず ・PCBが付着した陶磁器くず ・PCBが付着したがれき類 | ||
PCB処理物 | 以下の2点を満たしたもの ・廃PCB等、もしくはPCB汚染物を処分するために処理したもの ・PCB卒業基準による検証によって廃油、廃酸、廃アルカリ等の基準内に収まらなかったもの | ・廃油 PCB値0.5mg/kg超え ・廃酸 PCB値0.03mg/L超え ・廃プラ、金属くず、陶磁器くず 洗浄液PCB値0.5mg/kg超え 拭取PCB値0.1μ/100cm2超え 採取PCB値0.01mg/kg超え 等 | ||
排水銀等 | 以下のいずれかであるもの ①特定の施設において生じた廃水銀等 ②水銀もしくは水銀化合物が含まれているもの ③水銀使用製品から回収したもの | ①水銀使用製品として、水銀が封入された排水銀を除くもの ③排水銀等の精製残さを除くもの | ||
指定下水汚泥 | 下水道法施行令第13条の4の規定により指定された汚泥 | 判定基準を超えるアルキル水銀、PCR、六価クロム化合物をはじめとする指定物質を含むもの | ||
鉱さい | 一定濃度を超える重金属等を含むもの | 判定基準を超えるアルキル水銀、カドミウム、鉛をはじめとする指定物質を含むもの | ||
廃石綿等 | 飛散性のある廃石綿の内、以下のいずれかであるもの ①石綿建材除去事業により除外された、吹付け石綿及び石綿含有のもの ②特定粉じん施設で生じた石綿で、集じん施設で集められたもの ③以下をはじめとする事業で用いられ、石綿が付着しているおそれのある用具や器具類 ・石綿建材除去事業 ・特定粉じん施設を設置する事業 ・集じん施設を設置する事業 | ①・保温材 ・断熱材 ・耐火被覆材 等 ③・作業着 ・保護具 ・防じんマスク 等 関連事業 ・建築 ・解体 ・造船 ・機械修理 等 | ||
燃え殻 | 一定濃度を超える重金属等やダイオキシン類などを含むもの | 判定基準を超えるアルキル水銀、カドミウム、鉛をはじめとする指定物質を含むもの | ||
ばいじん | 一定濃度を超える重金属等や1.4-ジオキサン類を含などむもの | 判定基準を超えるアルキル水銀、カドミウム、鉛をはじめとする指定物質を含むもの | ||
廃油 | 勇気塩素化合物等、1.4-ジオキサンを含むもの | ・12種類の揮発性有機化合物を含むもの ・廃溶剤 等 | ||
汚泥、廃酸または廃アルカリ | 一定濃度を超える重金属等、PCB、有機塩素化合物等、農薬等、1.4-ジオキサン、ダイオキシン類を含むもの | ・12種類の揮発性有機化合物を含むもの ・判定基準を超えるアルキル水銀、カドミウム、鉛をはじめとする指定物質を含むもの |
参考:公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター/特別管理産業廃棄物の詳細
一般的に、特別管理産業廃棄物をはじめとする産業廃棄物の区別は難しいといわれています。たとえば、排出事業者が排出した廃油は「一般廃棄物の廃油」「特別管理産業廃棄物の廃油」「特別管理産業廃棄物(特定有害産業廃棄物)の廃油」のなかから、排出事業・特性・含有されている化合物などを考慮したうえで適切に区別しなければなりません。危険性をもつ特別管理産業廃棄物だからこそ、誤った区別は人体や環境に大きな被害を及ぼす恐れがあることを念頭に置いておくようにしましょう。
※元記事で品目の説明が記載されていますが、今回のキーワードは特別管理産業廃棄物許可であるので、簡略化したものを表内にまとめました。
特別管理産業廃棄物に関する許可
特別管理産業廃棄物は、人々の健康や環境に被害を及ぼす恐れのある廃棄物です。そのため、正しい知識をもったうえで適正な処理や対応ができる業者にのみ取り扱うことが許されています。特別管理産業廃棄物を運搬・処理する場合、排出事業者が自ら行うのであれば許可は不要です。一方、ほかの業者からの委託を受け、特別管理産業廃棄物の運搬や処理を事業として行う場合は、以下の許可を保有していなければなりません。
・収集運搬業:特別管理産業廃棄物収集運搬業許可
・処理業:特別管理産業廃棄物処理業許可
また、特別管理産業廃棄物を積荷した自治体と積み降ろす自治体が異なる場合は、それぞれの自治体で許可取得が必要です。以降、特別管理産業廃棄物収集運搬業許可と特別管理産業廃棄物処理業許可の総称を「特別管理産業廃棄物許可」とします。
特別管理産業廃棄物許可を取得するために必要な要件
特別管理産業廃棄物許可を取得する際は、いくつかの要件を満たしたうえで各自治体に許可申請を行います。ただし、許可申請したとしても必ず許可が得られるわけではありません。まずは、以下の4つの要件を満たすことを目指すとよいです。
許可取得に必要な要件1「講習会を受講し、修了証を所有している」
特別管理産業廃棄物許可を申請する際は、公益社団法人日本産業廃棄物処理振興センターが実施する講習会の受講が必須です。申請書類一式とともに、修了試験の合格を示す修了証の写しを提出することで許可申請を行えます。また、特別管理産業廃棄物に関わる講習会には以下の3つがあるため、必要に応じて受講しましょう。(2023年1月時点)
・特別管理産業廃棄物の収集運搬業に関する講習会:37,400円(税込)
・特別管理産業廃棄物の処理業に関する講習会:56,100円(税込)
・特管責任者講習会:13,200円(税込)
特別管理産業廃棄物の排出事業者は、事業所ごとに「特別管理産業廃棄物管理責任者」を任命しなければなりません。従って、必ず特管責任者講習会を受講するようにします。
参考:公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター/各講習会の概要と受講料
許可取得に必要な要件2「経理的基礎を有している」
経理的基礎とは、的確な事業運営を継続的に行えるほどの財産的基盤を有していることです。利益を計上できていることや債務超過していないことなどを、貸借対照表や納税証明書をはじめとする書類で証明します。ただし、判断基準や必要書類は各自治体によって異なるため事前確認が必要です。
許可取得に必要な要件3「適切な事業計画を整えている」
法令を遵守している適切な事業計画を整えている必要があります。より具体的に事業計画を立てることで、安定した事業運営だと証明することが可能です。たとえば、以下の事項を書面にまとめ、適切な事業計画を整えていることを証明します。
・事業計画
・取り扱う廃棄物の種類や予定している月の運搬量、もしくは処分量
・運搬車両や運搬容器の概要
・予定している運搬先の名称や所在地
・従業員数や就業時間
自治体によって求められる書類が異なるケースも少なくありません。事前に確認しておくことで、スムーズな申請ができるといえます。
許可取得に必要な要件4「欠格事由に該当していない」
欠格事由とは、適正な事業運営ができない人物であると判断する要件です。万一、欠格事由に該当した場合は、特別管理産業廃棄物許可の取得は認められません。また、許可取得後に欠格事由に該当してしまった場合、許可の取消処分が行われます。以下は、特別管理産業廃棄物許可の欠格事由の一部です。
・成年被後見人、非保佐人、破産者で復権を得ない者
・禁固以上の刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
・許可の取消処分を受けた日から5年を経過しない者
・暴力団関係者、もしくは脱退してから5年を経過しない者
注意すべきは、欠格事由に該当してはいけない人物が複数人いる点です。事業主のほかに、役員・株主・政令使用人など、事業運営に直接的に関わる人物も欠格事由の対象者であるため注意しましょう。
特別管理産業廃棄物許可の注意事項
特別管理産業廃棄物の運搬・処理を委託する場合は、許可取得のほかに業務を適正に行うための責任や厳しい基準をクリアする必要があります。さらに、以下の点にも注意しなければなりません。
産業廃棄物や一般廃棄物は異なる許可が必要
特別管理産業廃棄物許可は、あくまで特別管理産業廃棄物に対しての許可です。ほかの事業から委託を受けて、産業廃棄物や一般廃棄物を運搬・処理することはできません。産業廃棄物や一般廃棄物を取り扱いたい場合は、事業内容に応じて以下の許可もあわせて取得します。
・産業廃棄物収取運搬業許可
・産業廃棄物処理業許可
・一般廃棄物収集運搬業許可
・一般廃棄物処理業許可
許可を複数所有していれば、取り扱える廃棄物の種類は増えます。一方で、許可取得にかかる費用が高額となったり管理に多くの手間がかかったりするため、計画的に取得するようにしましょう。
特別管理産業廃棄物許可には有効期限が定められている
特別管理産業廃棄物許可には、5年の有効期限があります。満了後も許可を継続させたい場合は、各自治体で更新手続きが必要です。新規許可申請と同じように、申請書類を揃えたり日本産業廃棄物処理振興センターが実施する講習会を受講したりしなければなりません。以下は、特別管理産業廃棄物許可の更新講習会の種類です。(2023年1月時点)
・特別管理産業廃棄物の収集運搬業に関する更新講習会:16,500円(税込)
・特別管理産業廃棄物の処理業に関する更新講習会:20,900円(税込)
・上記を同時に受講できる講習会:33,000円(税込)
有効期限が切れた場合、許可を受けていた事業を運営することが禁じられます。更新手続きには2か月ほど時間がかかるため、余裕をもって更新手続きを行うようにするとよいです。
参考:公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター/各講習会の概要と受講料
排出事業者が自ら運搬・処理する際は帳簿付けが必要
排出事業者が自ら特別管理産業廃棄物の運搬や処理を行う場合は、必ず帳簿付けを行わなければなりません。帳簿では、環境省令で定める事項を記録したうえで以下を厳守します。
・事業所ごとで帳簿付けする
・月末までに、前月分の自己処理状況をまとめる
・帳簿付けは1年ごとに閉鎖し、5年間保管する
運搬は自社で行い、処理のみ委託する事業は帳簿付けを忘れないように注意が必要です。帳簿付けにて、自社が排出した特別管理産業廃棄物をしっかりと管理しましょう。
まとめ
特別管理産業廃棄物は、取り扱いを間違えると人体や環境に大きな影響を及ぼしてしまいます。そのため、適正な管理が求められるだけでなく、運搬や処理を委託する際は、委託業者が許可を取得しているかどうかを確認することも大切です。許可を取得した事業は、産業廃棄物処理法を遵守し、人々の健康や環境を守ることに努めましょう。もし、廃棄物の分類や取り扱いに迷った場合は、無理に判断せず自治体などに相談することをおすすめします。